珍しく二人が休みで、浮竹君だけ居た。

「きゃあっ!」

隣の席の子が、小さく悲鳴を上げた。
私はうっかりうとうとしていたから、気付かなかった。
前を見れば、一番前の席で浮竹君が喀血していた。
休憩時間で、教師はいなかった。

「浮竹君!!」

いつもなら後ろの席で黙ってみているだけなのに。
朽木君も浦原君もいないから、つい。
身体が動いて、彼の元へ駆け寄っていた。
それがファーストコンタクトだった。

「げっ…げほ、う…」

喉元を手で押さえ、苦しそうに咳をしている。
緊迫した状況の中、私はその大きな手にうっとりとした。

「大丈夫!?医務室にいきましょう」

肩を貸す。
これだけ人数が居て私以外に助けが来ないのは、
三人が普段どれほど敬遠されているかがわかる。

「う、卯の花…さん、大丈夫…だから」

名前を知ってくれていた事に、ドキリとする。
胸が高鳴る。体温が上がったみたいに熱い。

「無理しないで下さい」

平静を装って、歩き出す。
半ば引きずるようにして、医務室についた。
医務室には鍵がかかっていた。

「…いないのかしら」

しかしここで引き返すわけにも、
ほうっておくわけにもいかない。
私は唇を噛んで、考えた。
そして、鍵を破壊して中に入った。
背後で浮竹君がえっと小さく漏らした。

中に入ると消毒液みたいなにおいがした。
ベッドが二つ。浮竹君を寝かせて、私は薬を探した。
しかし、私は症状も何も知らない。
薬を適当に投与するのは危険すぎる。

「…」

とりあえず、綺麗にしなくては。
手ぬぐいを絞って、彼の口周り、襟元を拭った。
浮竹君は始終謝っていた。

「ごめん…」

始業の鐘が鳴る。
少し考えたが、ここに居る事にした。

「卯の花さんまで遅れちゃうよ」

「いいんです」

まだ一度も喋ったことはなかったのに。
まるで昔からの知り合いみたいに、浮竹君は話しかけてくれた。

ずっと、憧れだったと言ったら、くさすぎる。
でもこの組に入ったとき、ひときわ背の高い浮竹君は目立った。
銀の長髪、男らしい眉、優しそうな目、心地よく低い声が
私を彼に惹かせていった。

いつの間にか、浮竹君は眠っていた。
外にはあまり出られないのだろう。白い肌を見る。
まだ残っていた血を優しく拭って、周りを見回す。
時計を見れば、終業まで後二十分。

「…今更行っても、って所かしら」

十分程して、浮竹君は目を開けた。
呼吸が定まらないのか、喉の奥から息をする度音が聞こえる。
余程今日は調子が悪いようだ。

「う、はぁ、は…げほッ」

気管の回復は、この間の四番隊希望者の試験であった。
私は、これで最優秀だった。
それが、浮竹君のためだったとは、私以外誰も知らない。

「浮竹君、少し我慢して…」

喉元に手をあて、鬼道を唱える。
暖かい気が流れて、段々と呼吸も落ち着いてきた。
少しでも役に立てた事を、嬉しく思い、
不謹慎にも幸せだった。

「は…卯の花さんって、鬼道得意なんだ…」

「ええ。四番隊志望なんです」

へぇ…。感心したように浮竹君は頷いた。
一組に四番隊希望者は私くらいだろう。

「何でまた…?」

体力自信ないの?と聞かれ、言葉に詰まる。
貴方のためだなんて、言えない。
人を助けたいんですと私は言って逃れた。

「すごいね」

社交辞令。だけど、嬉しい。
こうして喋っているのが夢みたいで、
もう私は途中から何を言っているのか自分でもわからなかった。
終業の鐘が鳴る。
浮竹君は窓の外を見て、表情を変えた。

「見ーちゃった」

窓の外には、浦原君が居た。
ニヤニヤと笑ってこちらを眺めている。

「いっ、いつから居たんだよ」

手を伸ばし窓を開けて、浮竹君は言った。
声に焦りがあるのは、誤解されたと思ったという事。
つまり、そんな気はさらさらないと言っていると言う事。

「えー?浮竹が烈ちゃんに鬼道してもらってるとこ」

確かに、浮竹君は今日初めて私の存在を知ったみたいなものだし、
そんな展開は誰だって期待してない。
私は少し下を向いて、立ち上がった。

「あの、浦原君、授業でないのですか?」

浦原君は私のほうを見てまたニヤニヤ笑った。
そして、言った。

「出ないよ。でも、浮竹を見てる気はない」

何それ。と浮竹君が笑った。
私は見透かされている感じがして恥ずかしくて仕方なかった。

「卯の花さん、別に俺大丈夫だよ」

たくさん遅れたら四番隊入れなくなっちゃうよ。
彼があまりにも明るく笑うから、私は真っ赤になって、
何も言わずに医務室を飛び出した。
居てくれなんて言ってくれるはずないのに、それが少し悲しくて、
そしてちゃんと私の事を見てくれたことにすごく嬉しくて、
廊下を走っている途中で涙がこぼれた。
好き、なんだなと思った。

放課後また医務室にいって、
何も言わずに飛び出した事を謝ろう。

好きとは言わない。まだ、言えない。
四番隊に入れたら、その時に言う。

彼の病気は、私が治す。


ラブコメかきたかったんですけどね! 結局喜助で茶々入れちゃいましたけども浮竹は鈍感だといいなぁ。 烈様かわいい…!!
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